イントロダクション


スイスを代表する劇作・小説家・推理作家のフリードリヒ・デュレンマットによる二幕の喜劇であり、代表作のひとつでもある『物理学者たち』。

第二次世界大戦での甚大な原爆被害も記憶に新しく、ベルリンの壁建設や水爆ツァーリ・ボンバの爆発実験など、世界情勢が緊迫した1961年に執筆され、「科学技術」そして「核」をめぐって渦巻く人間の倫理と欲望が描かれています。

日本における福島原発の事故発生後、ドイツ語圏では再び注目を集めている本作が、卓越した発想力とユーモアを併せ持つノゾエ征爾の上演台本・演出により、現代日本に蘇ります。

あらすじ

物語の舞台は、サナトリウム「桜の園」の精神病棟。そこに入所している3人の患者-自分をアインシュタインだと名乗る男、自分をニュートンだと名乗る男、そして「ソロモン王が自分のところに現れた」と言って15年間サナトリウムで暮らすメービウスと名乗る男-三人は「物理学者」であった。

そのサナトリウムで、ある日看護婦が絞殺された。犯人は“アインシュタイン”を名乗る患者であり、院長は放射性物質が彼らの脳を変質させた結果、常軌を逸した行動を起こさせたのではないかと疑っていた。 

しかしさらなる殺人事件が起き、事態は思わぬ方向へ動くのであった・・・。

Diverse Theater とは

Diverseとは「多様さ」、ワタナベエンターテインメントが新たに立ち上げた様々なクリエーター、

プロデューサーとのコラボレーションにより、演劇の可能性を拡げる実験的な新プロジェクトです。

ワタナベエンターテインメントが贈る実験的プロジェクトの第一弾!


ご挨拶

このコロナ禍の一年半、我々は、今まで常識としてきた概念がそうでなかった事や、当たり前に共有出来ていた筈の社会の基盤が、思いもよらずに脆かった事を知る、発見の毎日と対峙してきました。

世界は、科学と哲学の進歩が相当にバランスを崩していた事を認めざるを得ない所まで来てしまったようだ。

この時代の急激な変化の中で、劇場を、より生きる意味を考え、観客と作り手達が自分の中の哲学と対峙する豊かな時間を提供する場所と考え、今回「ワタナベエンターテインメントDiverse Theater」を立ち上げ、演劇の多様性を追求する為に、様々な文化的相違を持たれるクリエイターとのコラボレーションで存分に掘り下げます。

このプロジェクトのスタートに、その揺るぎのない作品作りでかねてより尊敬する、オフィスコットーネ綿貫凜プロデューサーとの共同創作が叶いました。

綿貫さんからデュレンマットの「物理学者たち」をご紹介頂き、社会の構図の普遍的課題を、ある一日の、精神病院での、一つの物語を2幕の喜劇として提示したその作品性に目を見張りました。

そして、第一回目の東京オリンピックの2年前、1962年初演の作品がぐるっと一周し、再び東京オリンピックを迎える2021年の現代にも、今日的なテーマとなるのも必然と思い、「物理学者たち」の上演を切望しました。

もしも今回のオリンピック、パラリンピックが予定された2020年の2年前の2018年から世界がやり直せていたなら、果たしてどんな世の中になっていたのだろう、と考えさせられる戯曲でもあります。

この、ブロードウェイでもロングランした毒と笑いの名作に、オリパラ閉幕後の東京で挑みます。

演出はノゾエ征爾さん。幻になった、彼のエポックになったであろう2020年5月公演、松尾スズキ作「母を逃す」以上の、作劇の冒険になりそうで、既にワクワクです。

そして、ユニークな登場人物達に、主体と客体の表現を兼ね備える珠玉の俳優陣がお集まり頂けました。

2021年9月、劇場という人生の縮図の場所で、思いっきりスリリングに、ドキュメントのような演劇体験に没入していただけそうです。


プロデューサー 渡辺ミキ


物理学者たち。初めて読みましたが、相当に面白かった。

どっしりと骨太で、セリフも素晴らしく、それでいて軽やかに笑い飛ばすかのようなしなやかさ。

そこに、この俳優たち。

集合写真をおかずに白飯3杯、は無理だけど、そんな気持ちになるようなビュッフェのようなメンバー。いまビュッフェは規制があるけど、ここのビュッフェは楽しみ放題だ。

でも簡単じゃない。デュレンマットがほくそ笑んでいる。

いい夏になりそうです。是非目撃しにきてやってくださいませ。


上演台本・演出 ノゾエ征爾