【コラム】vol.4 作品解説✏翻訳・山本佳樹先生より
皆様お変わりございませんか?
キャスト・スタッフは鋭意稽古中です!公演も刻一刻と近づいております。
そんな中、翻訳の山本佳樹先生より、公演に寄せてメッセージと作品解説をいただきました!
まだまだ不安の多い毎日ですが、元気な姿で皆さんとの時間を共有できるよう、願っております。
スイスの劇作家フリードリヒ・デュレンマット(1921-1990)の代表作『物理学者たち』は、冷戦下の1961年、核戦争の危機のなかで書かれ、世界の劇場で大ヒットを収めました。近年では、福島原発事故の後、ドイツ語圏を中心にリバイバル上演が盛んに行なわれました。物語は精神病院を舞台とし、ある殺人事件を発端に、科学者の責任が問われていきます。
世界の秩序が失われた現代に悲劇は存在しえないと考えていたデュレンマットは、この作品を「喜劇」として構想しました。前半からジャブのように繰りだされる笑いの数々。第二幕に入って大きなアッパーカット。なんとか身をかわしたかと思ったとき、まさに笑うしかないような最悪な結末でとどめをさされます。
登場人物の性格の誇張や設定の抽象性もデュレンマットの戯曲の特徴であり、それは寓意的で普遍的な世界像と表裏一体をなしています。
『物理学者たち』が書かれた時代の脅威が核戦争だったとすれば、2021年のそれはずばりパンデミックでしょう。デュレンマット生誕100年となる本年、パンデミックのなかを生きる私たちの前に『物理学者たち』が予言劇のようによみがえり、その比喩の力で私たちの心を揺さぶってくれるものと期待しています。
翻訳 山本佳樹
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